【社内対談】見せるのではなく「魅せる」。事業を持続させるためのMOBILITY KŌBŌ流のアプローチ
2023年に立ち上がったMOBILITY KŌBŌ(モビリティ工房)は、今年で3年目を迎えました。
水路トンネル点検の支援モビリティ、悪路搬送、屋内搬送、自動走行──。これまで当事業部は、現場ごとの課題に向き合いながら、構想・試作・実証を繰り返してきました。
そうしたなかで、今期から一つの変化がありました。
ヤマハモーターエンジニアリング(YEC)代表取締役社長の藤原が、自ら事業企画推進部の管掌役員に就いたのです。
なぜ、利益だけでは測れない事業を続けるのか。なぜ、技術外販という一見“非効率”ともとれる挑戦を続けるのか。そして、なぜ私たちは「見せる」ではなく、「魅せる」という言葉を使うのか。
今回は、代表取締役社長の藤原とMOBILITY KŌBŌの立ち上げから現在までを知るメンバーである事業企画推進部 部長 永田、先行技術開発部 部長 松枝、経営企画部 部長 松下で、あらためて率直に語り合いました。
INDEX
01「止める理由がない」──YEC社長が自ら管掌役員に就く
藤原は今期から、外販事業を重要な位置づけと認識し、自らの意思で事業企画推進部の管掌役員に就きました。
「止める理由がない」
当事業について、藤原はそう語ります。
MOBILITY KŌBŌは、ヤマハ発動機グループの中でも比較的新しい取り組みです。立ち上げから数年が経過し、案件や相談も広がる一方で、事業として継続していくための課題も見えてきています。
ヤマハモーターエンジニアリング株式会社 代表取締役社長
藤原 英樹
藤原は、現在の状況について次のように話します。
「非常にユニークな部門だと思っています。ヤマハ発動機もやってないようなことをやっていて、技術外販で“一品もの”を、お客様の困りごとに合わせて提供していく。かなり珍しい部門です。
立ち上がったばかりということもあって、皆さまが力を貸してくださって広がってはいますが、放っておくと『しぼんでいく』と感じたのも事実です」
藤原は、MOBILITY KŌBŌが超えるべき壁として以下の三つを挙げます。
①:お客様の開拓
②:事業として成立する対価
③:社内理解
特に社内理解については、まだ発展途上の組織であることもあり、現在直接関わっているメンバーは20名程度です。社員約500名の会社全体で見ると、一部の取り組みという側面もあります。
そのため「何をやっている部署なのか、まだよく知られていない部分もある」と藤原は話します。
そうした状況も踏まえ、経営として継続的に見ていく必要があると判断し、自ら管掌する形になりました。その理由について、藤原は次のように語ります。
「やっている人たちのやる気をすごく感じるのですよ。社会的意義もある。だから、止める理由がないのですよ。
止める理由があるとすると、もう利益だけです。利益がどうなっているのだという、そこだけが止める理由になる。新規事業のフェーズで踏ん張れるのは、社長である私だと思いました」
一方で、藤原は現在の当事業部の位置付けについて、「まずは自分たちの足で立つことが重要」とも言います。
「ただし、最初から大きな利益を求めるというより、まずは損を出さず、継続できる状態を作ることが大切です。消防商材や技術外販を通じて、社会の困りごとを解決していくことに価値を置いています」
02人手不足で技能が失われていく時代に、モビリティで何ができるか?
藤原が話していたのは、単なる新規事業の話ではありません。背景には、日本の現場が抱える人手不足や技能継承の問題があります。
「新入社員の面接をやるのですが、応募してくる方が圧倒的に減っているのを実感します。中途採用も難しいですし、人口が減っていることを、ひしひし感じますね。
それと、技能や技術の継承問題ですね。ヤマハ発動機グループも70周年で、創設世代はもうほぼいません。私も平成元年入社で、今年58歳ですよ。過去の技術を積み上げてきた人間がどんどんいなくなる。これはどの業界も同じだと思います」
人手不足や高齢化、技能継承の問題は、製造業に限らずさまざまな現場で共通しています。
その中で、YECでは「モビリティ」をかなり広い意味で捉えています。
「動いて何かを運ぶもので、人を助けるもの、作業を助けるものは、ほぼモビリティと言っていいでしょう。私たちYECは、モビリティの定義をかなり広く解釈している会社だと思っています。
空もやるし、海もやるし、陸もやる。今までは海の上、道路の上といったところが中心でしたが、これからは家の中、私有地の中、工場の中、施設の中など、そういうエリアにモビリティが出ていくことにもなります」
また藤原は、最近自治会活動に関わる中でも、同じような課題を感じたと話します。
「最近、地区の評議員になりましてね。組長さんを取りまとめる立場なのですが、自治会のイベントに頻繁に出なければいけなくなりました。そうしたら、自治会って昔のままなのですよ。組織も情報伝達もやっていることも昔のまま。
参加している方は高齢化していて、年齢も性別もなく、身体的に負荷のかかる活動をしなければならない。私としてはなんとかできるのではないかと思うのですが、自治体にはお金がない。
であれば、地区単位で課題解決のモビリティを一つ持っておいて、町内で共同使用するなど、そういうアプローチもあるのかなと、最近すごく感じます」
03個別最適だった外販事業を、持続可能なものにするために
当事業部が行なっている技術外販は、お客様ごとに異なる課題に向き合う事業です。同じものを量産するのではなく、現場や用途に合わせて個別に構想し、試作し、形にしていきます。
経営戦略部 部長 松下は、その特徴について次のように話します。
「MOBILITY KŌBŌという名前は、あえて『工房』という言葉を取り入れています。個別のお客様のリクエストに応えるというのは、ビジネス的な観点で言うと、とても非効率なものです。
ですが、それをやることで、とても喜んでくださるお客様がいて、大きな価値も生み出せます。
次世代技術の導入が進むなか、規模の問題等で取り残される領域に価値を提供する、社会的意義も大きい取り組みですので、だからこそ、いかに継続できる状態にするかがポイントなのです」
立ち上げ当初は、まず取り組みを広げていくことが優先されました。現在は、継続的な事業として成立させていくフェーズに入っています。
それについて、事業企画推進部 部長 永田は次のように話します。
「技術外販事業は、新しいフェーズに入っています。当初は立ち上げて、拡大することが目的でしたが、やはり利益は必要で、ビジネスとして成立させなければいけません。新しいお客様から『これを作ってください』と言われて毎回それに応えていると、赤字になっていく。
それを解決するには『獲得した技術をどう活用していくか』が重要になってきます。プラットフォーム化や技術の転用を図る形です」
事業企画推進部 部長
永田一
実際には、業界が異なっていても、求められるモビリティの仕様や制御には共通点があります。
例えば、自動運転といっても、公道で高速走行するものではなく、水路や工場、屋内、悪路といった閉鎖環境での低速走行を求められるケースが多くあります。そのため、ある現場で培った技術を、別の用途へ応用できる場面も少なくありません。
また、当事業部では機能性だけではなく、デザインも重視しています。この点について、藤原は次のように話します。
「四国電力様とのプロジェクトで試作した水路点検車も、地味ではありますが、かっこよくしたいと思っていました。どんなお困りごとを助けるモビリティであっても、使うのは人間です。
これから新入社員の方が入社して、それを使い始めるにしても、やはりかっこいい方がいい。造形が美しいほうがいいじゃないですか。私は、デザインの要素は絶対に忘れてはいけないと思います」
四国電力様との取り組みで試作された「水路トンネル点検用モビリティ」
永田はそれを「人機官能」というヤマハ発動機グループが掲げる理念で説明します。「人機官能」とは、「人」と「機械」を高い次元で一体化させることにより、「人」の悦び・興奮をつくりだす技術です。
そのような官能性能を定量化しながらつくり込み、それを製品に織り合わせていくことがヤマハ発動機のモノ創りの太い骨格として、あらゆる現場で貫かれてきました。
ヤマハ発動機グループが掲げる「人機官能」の理念
「数多くの製品を開発してきた中で、人機官能の精神はもうDNAとして染み込んでいるのだと思います。意識していなくても、自然と設計や考え方に反映されている。
例えば消防現場の搬送機でも、ただ走ればいいわけではありません。重い装備を身につけた隊員の方が、『これなら頼れる』と思える存在になっているか。そういうところまで考えながら作っています」
藤原も、そうした感覚はモーターサイクル開発と地続きだと話します。
「私自身、長くモーターサイクルに関わってきました。コーナーを気持ちよく走れるか、人機官能の感覚をどう作るか、ずっとそういうことを考えてきたんです。
そのときに培った感覚は、技術外販の現場でも変わっていません。お客様の困りごとを解決する道具を作るときでも、『使う人が少しでも気持ちよく使えるか』という視点は、やはり大事にしています」
さらに藤原は、経営として技術者に求めていることについても触れます。
「YECで製造している一般向けの量産オートバイとは違って、技術外販は一品ものです。お客様と一緒に使い方や運用を考えながら作っていくものですから、量産開発とはまた違った、新しい領域に挑戦していけます」
YECでは、安全性や基本品質を大前提としています。その上で、技術者が現場ごとの課題に向き合いながら、自由に発想し、形にしていくのです。
04見せるのではなく「魅せる」ことで、アイデアをさらに広げていく
YECの先行技術開発では「魅せるモビリティ技術」という言葉を掲げています。
単に動くものを展示するのではなく「この技術で何ができるのか」を具体的に想像してもらうこと。その考え方を象徴する存在が、BiBeey(ビビー)とNatchey(ナッチー)です。
BiBeey(ビビー)/Natchey(ナッチー)
BiBeey は、前後輪インホイールモーターを採用した2輪駆動EVとして開発されました。コロナ禍のタイミングで、ガーデンEXPO2021(幕張メッセ)も出展しています。
その後継として開発された Natchey では、駆動4輪・操舵4輪による8軸連動制御を実現しました。並進や超信地旋回など、従来のモビリティとは異なる動きを特徴としています。
藤原は、 Natchey を初めて見たときの印象を次のように振り返ります。
「非常に面白い動きをしており『こういう発想でモビリティを考えるのだな』と印象に残りました。
ただ、正直に言うと『これを何に使うのだろう』とも思ったのです。すごい技術だとは感じる。でも、具体的にどんな場面で使えるのかまでは、その時点ではまだ見えていませんでした」
一方で、その用途を最初から限定する必要はないとも話します。
「まずは、こういう技術や動きができますよ、と魅せる。それを見たお客様が、自分たちの課題に当てはめて、『これならこういう使い方ができるかもしれない』と考えてくださる。そこが私たちの役割だと思っています」
先行技術開発 部長 松枝も、展示会での反応について振り返ります。
「 BiBeey の頃から、コロナ禍でも幕張メッセへ出展して、いろいろな方に説明を続けてきました。良い反応もあれば、厳しい意見をいただくこともありました。
そのなかで、 Natchey の展示では『この動きができるなら、こういうことにも使えるのではないか』と発想を広げてくださる方が現れたのです。
相手側にもエンジニアリングの知見があったからこそ、技術と課題を結びつけて見ていただけた。あれはすごく嬉しかったですし、実際にそこから具体的な取り組みにもつながっていきました」
展示会を通じて、「この技術を自社の課題に応用できるかもしれない」と考える企業が現れたことで、実際のプロジェクトにもつながっていきました。
松枝は、先行技術のプロジェクトスタートについて次のように話します。
「開発の入口では、『この技術は面白そうだ』『こういうことができたら面白い』という、技術起点の発想から始まることが多くあります。
一方で、YECでは投資テーマとして正式にテーマアップする段階で、『それがお客様にとってどんな価値になるのか』を審議会の中で確認しています。
技術先行の発想を否定するのではなく、そこをどう顧客価値へつなげるかを意識しています」
先行技術開発部 部長
松枝 秀樹
永田は、現地検証時の印象を次のように話します。
「暗くて狭いトンネルの中を、人が入って点検していく現場だったのですが、そこを私たちが作ったモビリティが走行しながら点検していく。四国電力の方にも、その場で『こういう形で課題解決ができるのか』というイメージを持っていただけました。
その経験は『この仕組みは電力会社以外の現場にも応用できるのではないか』という発想にも繋がりました」
四国電力様との水路トンネル内での実証実験の様子
当事業部では、このように技術を単体で完結させるのではなく、「どのような現場で使えるのか」「他の領域へ応用できないか」という視点で、展示や試作を次のプロジェクトへつなげています。
05お客様と一緒に苦しみ、一緒に課題解決を図る
技術外販では、お客様ごとに異なる課題へ対応していく必要があります。そのため、開発側にとっても、毎回新しいテーマに向き合うことになります。
永田は、現場で感じている難しさについて次のように話します。
「ダイレクトにお客様がいて、その方が困っていることに対して、直接向き合っていく仕事です。いただくのも、今までやったことのない課題ばかりなので、『どう解決するか』は毎回かなり悩みます。
一方で、成し遂げたときには、確実に喜んでいただけることも分かっています。何のために使うのかが最初から明確ですし、社会に役立つものになるという実感もある。その点は、大きなやりがいになっています」
藤原は、こうした仕事の特徴について、ヤマハ発動機グループの既存事業との違いにも触れながら説明します。
「ヤマハ発動機グループの安定した商材で言うと、お客様の顔を見るためには、自ら世界各国へ足を運び見に行かなければなりません。
南米、アメリカ、ヨーロッパ、アジア。でもMOBILITY KŌBŌは、仕事を進めていくなかで、日々お客様とのコミュニケーションが生まれる。エンジニアリングスマイルを現場で直接感じられる部門なのです」
実際、こうした取り組みが、新たな相談や案件につながるケースも増えています。永田は、四国電力様との取り組みを振り返りながら次のように話します。
「四国電力様も、最初からモビリティ活用の具体的なイメージを持たれていたわけではありませんでした。実際に動きや仕組みを見ていただくことで、『こういう形で課題解決に使えるかもしれない』と感じていただけた部分があったと思います。
Natchey のときもそうでしたが、実際に動きを見たことで、『この技術ならこういうことができる』と発想を広げてくださる方が現れる。エンジニアリングで課題解決したい方と、エンジニアリングで何ができるかを探している方。その両方を大事にしていきたいと思っています」
モビリティを導入すること自体が目的ではなく、「どのような課題を解決できるか」をお客様と一緒に整理しながら進めていく点が、MOBILITY KŌBŌの特徴でもあります。
松下は、その積み重ねが事業全体の力につながっていくと話します。
「目先の利益や売上だけ追っても、会社の強さや永続的成長にはつながらない。MOBILITY KŌBŌで力をつけていく。新たな価値を作り、いろんなお客様に提供する。
いただいた対価を次の糧にして、また新しい技術を獲得して提供する。そのサイクルを回すことで、ケイパビリティを上げていく。それが私たちの考え方です」
経営戦略部 部長
松下 慶
06顕在化していない課題感に、これからも技術で応えていく
YECには、もともと受託エンジニアリングの事業があります。一方で松下は、今後を見据えたとき、受託だけでは十分ではないと話します。
「変化に対応しながら、自分たちで新しいビジネスや仕事を生み出していく力が必要だと思っています。そうした取り組みがお客様にも響き、結果として受託にもつながっていく。そういう循環を作っていくことが大事なのだと思います」
また藤原は、社会課題の捉え方について次のように話します。
「社会課題というのは、課題として明確に認識される前の状態が、実は長くあると思うのです。
多くの人が、当たり前のように不便さを受け入れていたり、『これは職人さんに頼るしかない』と思い込んでいたりすることもある。そういうものが、まだたくさん残っているのではないかと思っています」
その例として、コードレスアイロンの話を挙げます。
「コードレスアイロンってありますよね。あれが登場する前は、市場調査をしても『コードが邪魔だ』という声はほとんど出てこなかったらしいですよ。ですが、実際にコードレスになった瞬間、それまで当たり前だと思われていた不便さが、一気に解消された。社会課題も、同じような部分があると捉えています。
普段は意識せずに受け入れていたり、『これは職人技に頼るしかない』と思われていたりすることが、まだたくさんある。そうした課題に対して、技術側から先回りして提案できるところまで、この会社を持っていけたらいいなと思っています」
現在のMOBILITY KŌBŌでは、お客様から相談を受け、顕在化している課題に対してモビリティや技術で応えていくケースが中心です。
一方で、その先には、「まだ課題として認識されていない不便さ」や「当たり前として受け入れられている負担」に対して、技術側から提案していく方向性も見据えているのです。
最後に藤原は、会社として目指したい姿について次のように話しました。
「個人的には、『この会社がなくなると困る』と思っていただける存在になりたいんです。もちろん、あらゆる人にそう思っていただく必要はないと思っています。
ただ、一部のお客様や関係者の方にとって、『いてくれて助かる』『なくなると困る』と感じていただけるような会社ではありたいですね」
ヤマハ発動機グループでは、「感動創造企業」を企業目的として掲げています。YECでも、「技術で人を笑顔にする」という考え方を大切にしています。
MOBILITY KŌBŌでも、現場ごとの課題に向き合いながら、新しい技術や仕組みを形にしてきました。今後も、お客様と一緒に試行錯誤を重ねながら、技術を通じた課題解決に取り組んでいきます。
当社ヤマハモーターエンジニアリング株式会社は、日本の製造業や物流業、建設業等における現場課題を「モビリティ」の切り口で解決するための総合エンジニアリングサービス「MOBILITY KŌBŌ(モビリティ⼯房)」を提供しています。
単なる製品提供ではなく、アイデア段階から実際に担当者が現場に赴いた上で設計・試作・検証まで伴走し、お客様に合わせたカスタマイズも可能です。
「全ての作業を自動化することは難しい」という現場でも、改善すべき要点を見極めた上で、最適化されたサポートに繋げていきます。
本取組みに関する詳細やご相談は、下記お問合せ先よりお気軽にご連絡ください。