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Interview.03
2026.07.15

【対談】三菱地所設計が描く、都市・建築・人をつなぐ未来

三菱地所設計は、130年以上にわたるまちづくり・建築設計のノウハウを持つ設計事務所です。近年は建物の設計にとどまらず、スマートシティや未来の都市インフラに関わる構想・コンサルティングにも積極的に取り組んでいます。
その一環として同社のデザインスタジオが2021年から進めているのが、SMS(Seamless Mobility System)構想です。

本稿では、SMS構想を主導する三菱地所設計 デザインスタジオの加藤匠さんとMOBILITY KŌBŌを展開するヤマハモーターエンジニアリング(以下、YEC)の永田・佐藤による対談をお届けします。

建築・都市設計の専門家がなぜモビリティを構想するのか。そしてMOBILITY KŌBŌとの接点はどこにあるのかについて、それぞれの立場から率直に語っていただきました。

01建築・都市デザインから「逆算」したモビリティ構想

「なぜ建築設計事務所がメーカーより先にモックアップを作っているのですか?」

あるとき、三菱地所設計 デザインスタジオの加藤さんは、大手自動車メーカーの担当者からそのように投げかけられたそうです。

加藤さんらが持ち込んだのは、電動キックボードの実機プロトタイプ。モビリティの専門家でも、量産メーカーでもない建築設計事務所が、なぜモビリティを構想し、自らモックアップを作るのか。

その理由は、デザインスタジオが「2050年の都市をどう設計するか」という観点からさまざまな取り組みを行っているためです。

三菱地所設計がモビリティの構想に取り組み始めたのは2021年のことです。きっかけは、海外での大規模な都市再開発のマスタープラン提案を検討しているときでした。

株式会社三菱地所設計 デザインスタジオ 
加藤匠様

「30年後、50年後の都市・建築の姿を提案するとき、モビリティとその関わりは欠かせない要素です。現状、都市基盤や建築の進化とモビリティの進化は別々のものとして進んでいる印象があります。

そこで私たち設計事務所側、つまり『建築や都市の側からモビリティをデザインしたらどうなるのか?』という問いが生まれ、それがSMS(Seamless Mobility System)の提案に繋がっています」

デザインスタジオのメンバーで月に1〜2回集まり、アイデアを持ち寄りながらブレストを繰り返し、2年をかけてまとめたのが、全85ページのブックレット『SMS:Seamless Mobility Systemnew window』です。

SMS構想ブックレット

2023年にリリースされたこのブックレット。空飛ぶクルマのデザインを中心とした第二版も2025年にリリースしており、その成果は三菱地所グループの代表的な取り組みの一つとして、翌年フランス・カンヌで開催された世界最大の不動産見本市MIPIMでも発表されています。

02都市・建築・人をつなぐ「媒介」としてモビリティを捉え直し

SMSが従来のモビリティ観と大きく異なるのは、その定義にあります。

これまでモビリティは「都市の中を移動する手段」として捉えられてきました。自動車であれ、電動キックボードであれ、基本的には「A地点からB地点へ人や物を運ぶための道具」でした。

SMSが提案するのは、それとは異なる位置づけとなります。

①:都市(まちの中の移動)
②:建築(建物内の移動手段)
③:人(身体拡張ツール)

これら三者間の「移動」を一つに融合させ、建物内外を問わず人の移動をシームレスにする「インフラ」として、モビリティを捉え直すというものです。

「それぞれのプロダクトの精度を上げることが目的ではありません。私たちは、建築と都市と人がもっと有機的につながっていくことを目指しています。モビリティをそのための媒介として捉え直すことが、この構想の趣旨です」とは加藤さんの弁。

その思想を体現する一例として、加藤さんが詳しく説明してくださったのが「Modular VTOLシステム」です。

車両キャビンユニットとプロペラユニットを組み合わせ、地上では歩いて移動し、ビルの側面を上がって屋上から飛び立つという一連の動線をトータルにデザインしたものです。

画像提供:三菱地所設計

「ビルの中に入るのではなく、ビルの外側を車が上がっていく世界では、各階のプライベートとパブリックの境界が変わります。建物の高層階に都市空間の中間領域が直接入ってくるイメージです」

このシステムには、災害発生後の避難時に全ユニットが降下方向に切り替わり、車椅子使用者など歩行困難な方の避難にも対応できる仕組みが組み込まれています。

現行の非常用エレベーターが消防隊員のためのものである以上、こうしたシステムが都市インフラとして普及することの意義は大いにあります。

「都市計画や建築計画から逆算して生まれたモビリティが導入されると、ひとつひとつのビルが変わって、都市が変わって、やがては社会そのものが変わっていくと考えています」と加藤さんは続けます。

このお話を聞いていた当社佐藤から、思わず言葉が出ました。

「私は『エレベーターってモビリティなんだ』と気づきました。縦の移動という視点で考えると、確かに身の回りで一番重要なモビリティの一つです。そういう発想の組み合わせがまだたくさんあるのだなと感じました」

事業企画推進部 技術外販グループ グループリーダー 
佐藤 卓

不動産は「動かないもの」だという常識。その前提を疑うところから、SMSの構想は始まっています。

03壁だらけの道のりで、モックアップによる「小さな具現化」が人を動かす

一方で、SMS構想について加藤さんは「実現に向けては壁だらけ」と言います。実際問題として、予算、経済性、規制など、実装への道のりには、あらゆる壁が立ちはだかります。

そこで生まれたのが、「まずは作ってみる」というアプローチでした。

加藤さんによると「このブックレットだけだと、どうしても『聞いて終わり』になってしまいます。モックアップを作ることで、多くの人に興味を持ってもらい、賛同する仲間を増やしていければと考えています」とのことです。

最初の一台は、折り畳み式の電動キックボード「Scooter PM01」。モビリティの専門家ではなく、普段はアート作品などの一点物の制作を得意とする協力会社に相談し、制作されたものです。

折り畳み式電動キックボード「Scooter PM01」シリーズのモックアップ

「出来はまだまだですが、これによって多くの方に強く興味を持って貰えるようになりました。賛同いただける方も増えて、本当に一歩一歩ですが活動が前に進んでいます」と加藤さんは語ります。

「傘のように」持ち運べることを目指して設計された Scooter PM01は、公共交通機関やビル内への持ち込みが容易になることで、街路も建物の廊下も「移動の拠点」になるという発想から生まれています。

どこにでも持ち込んでどこでも返却できる。そのような運用が実現すれば、都市における移動の制約が大きく変わることでしょう。

冒頭で紹介した大手自動車メーカーの担当者の言葉も、本モックアップを持参して訪問したときのものです。図面や画像だけでは生まれなかった反応が、実物を前にして得られたのです。

「お客様に具体的にこういったものが欲しいと実際に見せてあげることで、より深いニーズや期待されていることが引き出せます。ものがあることの力というのは、やはり大きいと思います」と当社永田は加藤さんの言葉に応じます。

事業企画推進部 部長 
永田一

ヤマハモーターエンジニアリングで展開するMOBILITY KŌBŌでは、構想段階の相談から試作品の設計、制御開発、現場での実証、その後のチューニングまでを一体として扱っています。

加藤さんと同様、「まずは試作」のアプローチをとってきた永田はこう続けます。

「建物の中に入り込む、人との触れ合いが非常に近くなるという発想がインプットされると、エンジニアとして『こんなこともできるのではないか』というイメージが広がっていきます。

まずはプロトタイプでものを作って、そこから共感を広めていく。そういう活動が必要になってくると感じていて、そこに私たちのような試作支援が接点になれるのかなと思っています」

壁だらけの実装の道のりにおいて、ものが人を動かす。現場課題に向き合う上では、そういった観点が必要になるのだと実感させられます。

04三菱地所設計の「構想力」と、YECの「試作力」のかけ合わせ

三菱地所設計とMOBILITY KŌBŌとの関わりは、モックアップ製作をきっかけに生まれました。「よりブラッシュアップしたものを作れる機会があるといいですね」というお話から、YECへご相談いただいた形です。

当社佐藤は、SMS構想について伺った際の驚きをこう語ります。

「資料を見せていただいて、お話を聞いているだけでも、頭の中でいろんなイメージが広がっていきました。社内で話してみても、いろいろなアイデアが出てくるという意見があり、会社として本当に刺激をいただいています」

YECはヤマハ発動機グループとして、陸・海・空にまたがるモビリティの製品開発を手がけてきました。モーター制御を主軸に、ランドモビリティからドローン、マリン製品まで幅広く開発してきた経験があります。

佐藤はさらに「モビリティをちょっと特殊な捉え方をしたとき、ランドモビリティに捉われない考え方で具体化できます。『こういう考え方だったら、当社技術の活用もできるのではないか』など、どんどん活用アイデアが湧いてきて、血が騒ぐ感じがします」と続けます。

さらに、加藤さんはこう付け加えます。

「私たちはモビリティとしての技術的な裏付けを持っていません。逆に言えば形やサイズ感の制約から脱した発想ができると考えています。

メーカーの方に興味を持っていただけるように、まずはニュートラルなデザインを提示し、技術的な知見を付け加えながらブラッシュアップをしてもらえるようにしています」

使われ方やフィールドから発想する三菱地所設計 デザインスタジオと、その発想を形にする技術と経験を持つYEC。

永田は両社が持つ補完関係をこう整理します。

「三菱地所設計が全体感を考えてくださり、そのなかで『どういったモビリティが動き回ればいいか』を考える方がまた別にいらっしゃる。その上で、それを具現化するのが私たちでもある。そういった役割分担がされていれば、各企業間を跨いだお仕事も成立するなと感じます」

05「今はできない」を捨てることが未来の共創関係の第一歩

最後に、今回の対談ではある重要な考え方が共有されました。それは「SMS構想は短期的に製品を完成させるプロジェクトではない」ということです。

「私たちはどうしても2〜3年後に製品化というところでものを捉えがちです。ですがこれはマスプロダクトではありません。

だからこそ、『今の技術でこんなにスマートにはできません』とは言わないようにしています。1年後、あるいは5年後になれば電池がもっと小さくなるかもしれない。そういう将来的な変化も一緒に見据えて対応していく。これが大切なのだと感じています」とは永田の弁です。

この言葉に加藤さんも深く共感してくださいました。

「従来型の受発注関係におけるパートナーではなく、両者が歩み寄りながら、立場を超えて提案し、良い落とし所を探っていく。ワンストップできちんと対話して、喧々諤々の議論を交わせる関係性になっていければと思っています」

長期的な視点で、構想と試作と実装を行き来しながら前に進んでいく。そのプロセス自体が、SMSという構想を推進する上では必要なのです。

その長期的な取り組みの先に、加藤さんが「最も実現したい」と語る姿があります。

「デザイン性のある車椅子は増えてきましたが、悪路や段差、海外の荒れた舗装路をちゃんと走れるものはまだ少ない。そういう方たちの都市における自由度を増したいと思っています」

現在モックアップを製作中の「Trunkbot」には、その思いが込められています。荷物を運びながら一時的な座椅子にもなり、高齢者や歩行困難な方に寄り添うこのモビリティは、SMSの思想のなかでも、特に都市に暮らす人々に近い場所にあります。

「Trunkbot」モックアップ

「インベンション(着想)がイノベーション(革新)になるかどうかわからない中ではありますが、さまざまな壁がある状況でも、先に進められるようにしていきたいと思っています」と加藤さんは締めます。

都市と建築の未来を設計する三菱地所設計と、モビリティの試作と実装を担うMOBILITY KŌBŌの共創関係に、今後もご注目ください。

今回の対談のように「構想はあるが、実現手段に悩んでいる」「構想を具現化するパートナーを探している」という企業様に対して、「試作」によって最初の一歩目をご支援できる存在であり続けます。

当社ヤマハモーターエンジニアリング株式会社new windowは、日本の製造業や物流業、建設業における現場課題を「モビリティ」の切り口で解決するための総合エンジニアリングサービス「MOBILITY KŌBŌ(モビリティ⼯房)」を提供しています。

単なる製品提供ではなく、アイデア段階から実際に担当者が現場に赴いた上で設計・試作・検証まで伴走し、お客様に合わせたカスタマイズも可能です。

「全ての作業を自動化することは難しい」という現場でも、改善すべき要点を見極めた上で、最適化されたサポートに繋げていきます。

本取組みに関する詳細やご相談は、下記お問合せ先よりお気軽にご連絡ください。

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