【事例】前編:四国電力様の水路トンネル点検における改善のための第一歩
四国電力様は、四国地域の電力供給を担う電力会社であり、水力発電は再生可能エネルギーの一翼を担う重要な電源となっています。その安定運用を支える重要設備として発電所とダムをつなぐ水路トンネルがあります。
こうした設備の健全性を維持するためには、定期的な点検が求められます。しかし、水路トンネルの点検は暗所や水たまり、不整地といった条件の中で行われるため、現場での作業負荷が大きく、水路における運用面での制約も発生しています。
本稿では、このような水路トンネルの点検業務に対して、ヤマハモーターエンジニアリングが開発面で関与し、四国電力 再生可能エネルギー部土木グループ副リーダー 大石佳伸様、再生可能エネルギー部土木グループ 池本大樹様にもご協力いただき、現場で行なった検証を通じて段階的な省力化を目指したモビリティの試作開発の事例をご紹介します。
まず前編として、水路トンネルにおける点検業務の実態と課題、そして試作開発に至るまでの背景について整理してお伝えします。
写真左より、四国電力 大石様、池本様
INDEX
01水路トンネルという過酷な現場での点検業務
四国電力様では、愛媛・高知・徳島の各水力センターを拠点に、四国内に存在する発電所(58箇所)の水路トンネルの点検を定期的に実施しています。水路トンネルの点検は、設備の安全性や発電設備の安定運用を確保するうえで欠かせない作業であり、約3年に1回の頻度で実施することが社内規定で求められています。
今回の施策実験は、愛媛県内の面河水力センター管内における水路トンネルを対象に行われました。
水路トンネルは延長数キロメートルに及ぶものもあり、点検は水路トンネルへの入坑口から内部へと進みながら実施されます。
面河水力センター管内における水路トンネル、は常に水が流れており、場所によってはひざ下まで水深があります。そもそも水力発電設備は、戦後の電力需要拡大に伴って建設されたものが多く、「経年による洗掘」「改修工事」等で、水路底部の路面に凹凸や段差に加え、大きな石やがれきなどの障害物が存在しています。作業員は照明を確保しながら足元の状況を確認し、滑りやすい箇所や段差に注意を払いながら移動する必要があります。
従来の水路トンネル点検は、人が現地に入り、役割を分担しながら進める体制で行われてきました。トンネル内を移動しながら、距離を測り、位置を記録し、同時に写真を撮影します。さらに照明の確保も必要となるため、複数の作業を並行して進める必要があります。
「こうした作業は一人では難しく、距離計測、記録、撮影、照明といった役割を分担し、複数人が1組で対応しています」と四国電力 大石様はおっしゃいました。この作業は、全員が一体となって移動しながら点検を行うため、誰か一人でも欠けると成立しない構造となっていることが伺えます。
また、トンネル内を長距離にわたって移動しながら作業を行うため、身体的な負荷も大きくなります。作業者の負担軽減を前提とすると、作業時間や実施頻度にも制約が生じます。このように人的リソースへの依存が大きいことが、点検業務全体の効率や継続性に影響を与えていました。
02従来の点検方法では「リソースや属人性の問題」が将来的に懸念されていた
こうした点検体制のもとでは、まず人員の確保が前提となります。点検作業は複数人で対応し、人員や労力を要するため、作業が重ならないようにスケジュール面でも制約が発生します。
そもそも、水路トンネルの点検は机上で語れるほど単純な業務ではありません。現場は山間部にあり、アクセスしやすい場所ばかりではなく、トンネル内は暗く湿気があり、場所によっては水が流れています。
路面には凹凸や段差がある箇所もあり、人が歩くだけでも神経を使う環境です。今回対象となった水路トンネルも、延長約2kmに及び、四国電力 池本様も「作業環境的に、非常に過酷な現場」と言われており、負荷の高い現場として認識されていました。
こうした環境の中での点検は、単に見て回るだけでは成立しません。異常の有無を目視で確認し、その位置を把握し、後からでも確認できる形で記録を残す必要があります。
また、点検の一部は現場での目視判断に依存しています。ひび割れや剥離の程度といった判断は、その場での確認に委ねられるため、経験や熟練度によって差が生じる可能性があります。このため、水路トンネルの点検において、人員確保や作業の属人化といった課題を抱えていました。
<解消すべき現場課題>
- 複数人(最低4人程度)での対応が前提で、人的リソースに依存した運用である
- 点検作業は複数人が分業し、全員で対応するため、作業が重ならないようスケジュール面等での制約がある。
- 目視判断に依存する部分が大きく、経験や熟練度によって確認精度や記録内容にばらつきが生じる。
03ヤマハモーターエンジニアリングとの協働で始まった課題解決の第一歩
四国電力様でも、かねてよりDXに向けた取り組みを進めており、その流れのなかで当社ヤマハモーターエンジニアリングにもご相談いただきました。
四国電力様が当社にご要望としていただいたのは、単に試作機を製作することだけではありませんでした。ヤマハグループとして陸・海・空の多様なモビリティ開発で培ってきた技術や知見を生かし、現場要件の整理から仕様策定、試作機の開発、現地での検証までを一体で進めていくことです。
さらに、当社グループのサプライヤーネットワークを活用した部品調達や、現地へ繰り返し足を運びながら条件を確認し、仕様へ落とし込んでいく進め方も、今回のような特殊環境の開発では重要な要素です。
人手不足に挑むー段階的モビリティ導入のすすめ助人から省人化へ、現場に寄り添う現実的アプローチでもご紹介しているように、ヤマハモーターエンジニアリングでモビリティ導入の「省人」「助人」で区分しています。
水路トンネル点検のような現場では、いきなり作業全体を置き換えるのではなく、まずは移動、記録、確認といった負荷の大きい工程を支えるところから始めることが現実的です。
点検作業そのものを切り離すのではなく、まず記録の取り方や作業の進め方を見直すことから検討を進め、四国電力様からは「現場での作業負荷を軽減しつつ、後から複数人で状況を確認できる形で情報を残したい」とのご要望をいただきました。
そのためには、トンネル内で安定的に映像やデータを取得できる仕組みが前提となります。
こうした背景のもと、ヤマハモーターエンジニアリングでは水路トンネル内を走行しながら映像と位置情報を取得する点検支援用の試作モビリティを開発しました。本取り組みは、完成された機材を前提とするのではなく、現場での使用を通じて有効性と課題の双方を確認していく試作開発として進められています。
試作機には、暗所環境に対応する照明と、複数方向を記録するカメラが搭載されています。さらに、水路映像と紐づく位置情報は、トンネル入口からの距離として記録する構成となります。カメラ映像は、その場での確認だけでなく、後から点検結果として多面的に見返せるようにしておくことが前提となります。
このように、本件の試作開発は、まず現場での記録性と作業負荷の改善に着目し、実際に使いながら段階的に点検のあり方を見直していく取り組みとして進められています。過酷な現場に対して、構想段階から現地検証まで伴走し、現場で使える形に具体化することが当社の役割となります。
04現場課題の段階的な解消を目指した点検用試作台車の開発
取り組みで前提となっているのは「機械の性能だけを高めれば現場で使えるわけではない」という点です。
現場で使うモビリティには、走行性能と同じくらい、搬入性や設置性が求められます。水路トンネルは山間部に位置し、車で近寄れない場所が多くあり、現場によっては長い距離や厳しい傾斜、足場の悪い山道を歩いて機材を運ばなければならないこともあります。今回の現場でも、通常のモビリティを組立られた状態で持ち込むことは難しく、分割して運搬し、現場では工具無しで簡単に組み立てられる構造が必要とされました。
一方で、トンネル内の路面は凹凸や段差が存在し、単純な走行性能では対応しきれない場面もあります。持ち運びやすさを優先すれば悪路への対応力が不足し、走行性能を重視すれば重量が増加したり、構造が複雑になったりするのです。
「現場で使える支援機材」とするためには、この両立が前提となります。
こうした条件のもとで、ヤマハモーターエンジニアリングは試作開発を進めてきました。同社が展開するMOBILITY
KŌBŌでは、構想段階の相談から試作品の設計、制御開発、現場での実証、その後のチューニングまでを一体として扱っています。
現場ごとに条件が異なる以上、最初から最適な仕様を決めることは難しく、実際に使いながら調整していく進め方が前提となります。
本件でも、完成された仕組みを前提とするのではなく、まずは小さく試し、現場で確かめながら改善を重ねていく形で開発を進めています。いきなり人の作業を置き換えるのではなく、まずは現場の作業を支える形で負担を軽減していくという考え方が背景にあります。
その具体化として、先述の水路トンネル内を走行しながら映像と位置情報を取得する点検用の電動試作台車が構築されました。
水路トンネル点検という過酷な現場に対して、まずは人の作業を支える仕組みを持ち込み、記録の質と作業のあり方を見直していく。そのために、映像取得、位置把握、搬入方法、走行方法といった複数の必要要件が、試作を行うなかで具体化していきました。
主役はあくまで現場で点検を担う人であり、その作業をどのように支えるかが、本取り組みのポイントとなっています。
05まずは試作と実証のサイクルを回していくことが大切
水路トンネル点検という現場では、作業環境そのものに制約があり、人の作業に依存せざるを得ない構造があります。
今回の取り組みでは、そうした現場に対して、いきなり作業を置き換えるのではなく、まずは作業を支える形で負担を軽減し、記録のあり方を見直していくアプローチを採っています。試作台車の開発においても、電動化による省力化だけでなく、搬入性や設置といった運用面を含めて検討が進められており、現場で実際に使える形を前提として設計しました。
完成された仕組みを前提とするのではなく、試作と実証を通じて改善を重ねていく進め方が採られている点も、本取り組みの特徴です。
後編では、この試作台車を実際の水路トンネルへ持ち込み、現場でどのように搬入・組立が行われ、どのような条件で走行し、どのような課題が見えてきたのかをご紹介します。
【事例】後編:四国電力様の水路トンネル点検における現場課題の改善のための第一歩
当社ヤマハモーターエンジニアリング株式会社は、日本の製造業や物流業、建設業における現場課題を「モビリティ」の切り口で解決するための総合エンジニアリングサービス「MOBILITY KŌBŌ(モビリティ⼯房)」を提供しています。
単なる製品提供ではなく、アイデア段階から実際に担当者が現場に赴いた上で設計・試作・検証まで伴走し、お客様に合わせたカスタマイズも可能です。
「全ての作業を自動化することは難しい」という現場でも、改善すべき要点を見極めた上で、最適化されたサポートに繋げていきます。
本取り組みに関する詳細やご相談は、下記お問い合わせ先よりお気軽にご連絡ください。